2024年7月12日建築学科

学生の声(第5回)

今回は、建築学科4年生(2021年入学)の太田実里さんにインタビューしました。

建築学科の教員は、教育対象として、建築デザイン、空き家の再生、まちづくりや歴史的建造物の調査などの学外プロジェクトを各所で実施しています。それを教育や地域連携に活かすために、学生とともに各地に赴いて、地域の方々と協働して進める授業があります(建築プロジェクト演習など)。そういった活動について、学生たちは何を考えて、どのように関わっているのか、そのところを太田さんに聞きました。

岡北:太田さんは学外での活動にとても意欲的に取り組む学生という印象がありますが、その動機はなんですか?

太田:高校3年生の時に美術部のメンバーと「デザセン」(全国高等学校デザイン選手権大会)に参加することになり、地元の倉敷市玉島で、高校生と地域の人たちとの交流を目指すプロジェクトを立ち上げました。街の歴史や人々の暮らしをきちんと知って、それを地域の皆さんにもご紹介するために、商店街の人たちの似顔絵が載った地域の案内マップを制作しました。学園祭で展示して、いろいろな人に見てもらいました。デザセンでとてもいい成績を収めたわけではなかったですが、これまでになかった達成感と楽しい時間を過ごすことができた記憶があります。
その経験がとても大きいと思います。わたしはそもそも「建築物」よりも、それを取り巻く「人」に興味があって、人の暮らしを支えたり、みんなが楽しく集まれるような場所をつくりたくて、建築学科に進みました。

玉島の風景

太田さんが愛する玉島の風景

岡北:なるほど。それが太田さんにとっての、街との関わりの原点なのですね。そうした経験を大学でさらに展開させたいと思って、学外のプロジェクトに参加するようになったわけだ。

太田:そうですね。最初に関わったのは、1年生の時から参加している吉備中央町での「酒蔵再生プロジェクト」です。入学してすぐだったと思います。プロジェクト担当の穂苅先生から「使われなくなった古い酒蔵の掃除があるんだけどこない?」と言われて、同級生何人かで参加しました。ちょっとした興味で参加してみたところ、最初は本当に掃除だけでした(笑)。酒蔵に眠っていた資料や家財道具などを整理して、掃除をして…の繰り返しです。整理した資料は岡山県立記録資料館に寄贈しました。そして、酒蔵と町のかかわりを知るために、町内の人たちにインタビューして、書き起こして、町の成り立ちと歴史を紹介する冊子を作りました(紹介記事)。いまもプロジェクトは続いていて、酒蔵の実測調査を終えたところです(紹介記事)。次の段階は酒蔵のリノベーションになると聞いています。

左:大事なものを選り分けつつ、丁寧に掃除しています。
右:実測方法を学びながら、測り忘れがないように慎重に進めました。

左:酒蔵の実測立面図(太田さん作成)
右:酒蔵の活用アイデアの提案(プロジェクトチーム作成)

岡北:この再生プロジェクトをまとめた冊子『農村に生きる?語りの地図帖』はわたしも持っています。インタビューっていい経験になりますよね。みんなに共通する大事なものが見えてくることもあるし、街や風景の見方が人によってこんなに違うんだっていうこともわかります。それをきっかけにどんどん外に出ていくわけですよね。

太田:そうですね。それから県内のNPO団体のまちづくり推進機構岡山でのインターンシップに行って、矢掛町の柿渋を使った染め物体験などを企画しました。その時に初めて「中山間地域」という言葉も知って、西粟倉村なども訪れたりして、これまであまり知らなかった岡山県の町や景観を知ることができました。こういうところで出会った人たちとはその後も交流があって、例えば、柿の収穫のお手伝いなどもしました(笑)。

柿渋染

柿渋染に集まった地域の人たち

岡北:(写真を見ながら)おおお!すごい盛り上がっている。矢掛町は干し柿で有名ですもんね。まちづくりとかを考えるにあたって、特に岡山県では「中山間地域」は非常に重要なテーマだと思います。

太田:さらに3年生になってからは「建築プロジェクト演習」や「インターンシップ」という授業でまた新しい展開がありました。インターンシップでは、岡山市内の建築設計事務所に1週間ほど在籍して、いくつかの進行中のプロジェクトに関わりました。建築や新しい場所をつくる際には、関係するたくさんの人たちと打ち合わせを重ねて、ビジョンを共有することが大事なのだなと実感しました。
そこから建築プロジェクト演習が開始しました。福山市の鞆の浦の商店街が舞台で、ここでも人のつながりから、どんどん計画が展開していって、地元の小中学校とコラボレーションして、ゲームを企画したり「えんだらー」と呼ばれてかつて地域で多くみられた縁台を一緒に新しく制作したりして、大きなCMD体育_cmd体育平台@(紹介記事)も実施することができました。こうしたプロジェクトは教員のサポートのもとで、入念で丁寧な準備から始まります。事前の勉強会、調査計画の策定、インタビューの方法の習得など、計画を成功させるために必要なステップを徹底的に学ぶことができました。

岡北:すごい多くのことに関わってきたんですね!!そうした学外でのプロジェクトに参加してよかったと思った瞬間ってどんな時ですか?

太田:自分の世界や表現の手法がどんどん広がっているなと実感する時です。プロジェクトに参加しなかったら知り合うことができなかった人たちとつながって、たくさんお話をする中で、新しいものの見方や知識を知って、自分の中の引き出しがすごく充実するのを感じます。高校生の時に美術部で絵を描いていた時の感覚にも近いところがあって、最初は自分だけの関心から描いていたけれど、先生や部員との関係を通して、自分とは違う表現手法や価値観を知って、描き方が大きく変化していったことを覚えています。新しいことに挑戦して得られることの面白さがわたしにとっては大事なことです。

岡北:わたしもいろいろなことに挑戦して、新しい人たちと出会って、助けてもらったり、でも迷惑をかけてしまったり、うまくいったりいかなかったりを繰り返してきました。振り返ると、それで成長したことがたくさんあったし、チャレンジしてきてよかったなと思っています。それは太田さんがおっしゃったように、他者との交流を通した自身の変化にあるような気がします。学外プロジェクトで悩んだこと、難しかったことは何ですか?

太田:プロジェクトを実施していく上で、教員と学生、学生同士、さらには地域の人々や関係者の方々と価値観や情報をしっかり共有することですね。プロジェクトの目的やゴールを曖昧にしてしまうと、深刻なすれ違いにつながってしまいます。立場が違う人々の間で情報や思いを誤解なく伝えたり、理解することはとてもたいへんだと思いました。

岡北:うんうん。すごくよくわかります。わたしも仕事を進める上で、コミュニケーション不足によって「ああ、誤解を招いてしまった!」と反省することしきりです。では、少し話題を絞って、授業科目の「建築プロジェクト演習」の魅力を教えてください。

太田:「建築プロジェクト演習」は先生方が進めているプロジェクトによって、内容がぜんぜん違います。学内キャンパスに配置するベンチを制作したり、商店街や空き家の再生に関わったり、学生の作業や立場もそれぞれです。そういった多くの魅力的なプロジェクトの中から、自分の関心にあわせて選択して、貴重な体験ができるので、面白い授業だと思います。

岡北:なるほど。確かにそうですね。教員は大変ですが(笑)、県大ならではのいい授業だと思います。卒業研究のテーマや今後の進路はもう決まっていますか?

太田:具体的なことはこれからですが、玉島を舞台に地域の人と関わりながら、街の魅力を伝える研究になればと思っています。いまは街歩きをして、詳細な観察ノートを作ったり、さまざまな人にお話をうかがったりしています。
卒業後の進路については、大学院進学を目指しています。さらに勉強を進めて、経験を積んで、自分でプロジェクトを企画して実施できるようになりたいです!!!

記録

玉島を歩き記録する。太田さんのこれまでの経験が活きています。

(インタビュー後記)

みずみずしい感性、行動力、将来への希望、建築や街への愛など、太田さんのインタビューからさまざまなものを受け取りました。大学生活では積極的に「外」に出かけることで、思ってもみなかった経験ができます。太田さんのように、それが大きなステップアップにつながることもあります。授業や大学のカリキュラムを超えて、どんどんチャレンジして欲しいですね。